デルタ株に対する新型コロナウイルスワクチンの効果

今日はリウマチ・膠原病の話題からは離れて、新型コロナウイルスの話です。

コロナウイルスに関して、世の中には様々なデマが出回っています。

デマとまでは言わないまでも、「ワクチンは重症化を防ぐ効果しかない」「ワクチンは変異株には効かない」といったような誤解した声がよく聞かれ、こういったことを理由に「ワクチンをうっても意味がないからうたない」といった判断をする方がおられるようです。

医学・医療に限ったことではありませんが、「正しい情報」を入手し、「正しく判断」することが必要です。

今回は、デルタ株に対するワクチンの効果について、正しい情報をご説明します。

　引用元：N Engl J Med. 2021; 385: 585

まず結論から

　デルタ株に対してワクチンの効果はないのか？　→効果はあります
　デルタ株に対してワクチンの効果は落ちるのか？　→落ちます
　デルタ株に対してワクチンの効果はどれぐらい落ちるのか？　→少し落ちします

結論に関する根拠

臨床医学で最も評価の高い雑誌の一つである、New England Journal of Medicineに掲載された論文に示されたデータをご説明します。

表を一つ引用します。

例えばファイザー製ワクチンを2回うった方の効果はどうでしょうか？BNT162b2 vaccineのDose2という行を見ればその答えが書いてあります。アルファ株(英国株)に対する効果が93.7%であるのに対して、デルタ株に対しての効果は88.0%です。このデータをみて効果がないと言えるでしょうか？効果は十分ありますよね。インフルエンザのワクチンの効果が約50％前後であることを考えれば十分効果はあります。

では、アルファ株に比べて効果は同等でしょうか？これは効果は落ちると言わざるを得ません。さらにどれぐらい効果は落ちるでしょうか？これは感じ方は人それぞれとは思いますが、「少し」と言っていいのではないでしょうか。この論文でも少し、と結論づけています。

デルタ株に対してもワクチンの効果はあります。ただ少しだけ効果は落ちます。

以上のことから、デルタ株に対してもワクチンの効果はなくならず、効果はあります。ただし、少し効果はおちます。ただ、総じて言えばデルタ株に対してもワクチンは高い効果を保持しており、接種する意義は十分にあると言えるでしょう。

なぜ誤解がうまれるか

では、なぜ冒頭にあげたような誤解が生まれるのでしょうか？

医学に100％はありません。これは紛れもない事実です。治療薬の効果に関する論文をこれまでたくさん読んできましたが、100％効いた薬なんて見たことありません。

ですので、望ましくない結果がある一定数でてしまうのもまた事実です。マスメディア含めて多くの人はその望ましくない結果をみると、さもそれが大多数の方に当てはまる事実であるのかのように受け取ります。それは情報を流す側にも問題がありますし、情報を受け取る側にも問題があります。

情報を流す側は、その望ましくない結果が生まれるのは一般的にどれぐらいの割合なのかを合わせて知らせる必要があります。大多数の方に当てはまる事実だとも勿論言っていませんが、正しい情報を添えて知らせなければ受け取る側には正しい情報が伝わりません。

情報を受け取る側は、正しい情報が何であるか、それを常に知ろうとすることです。一つ情報があればそれは本当に正しい情報であるのか、常に疑ってみることです。

間違った判断をしないためには

医学の世界でも、間違った情報というのは溢れています。医学雑誌にも誤った情報が掲載されることは珍しくありません。また、今は正しいと思っていても、10年後にそれがひっくり返る、ということもあります。我々医療従事者は、常に正しい情報を取捨選択しながら自分の知識として取り入れています。医療従事者でなければ、情報が正しいかどうかを判断するのは難しいですが、①正しい情報を発信しているところから情報を取得する、②正しい情報から字義通りの意味を読み取る、ことが重要です。

例えばワクチンに関して言えば、①正しい情報を取得するには、やはり最も近道なのは主治医に相談することだと思います。また、厚生労働省のホームページには「憶測・誤解」は書いていません。「事実」が書いてあります。こういったところから情報を受け取ることが大事です。

②正しい情報から字義通りの意味を読み取る、とは勝手な解釈をしないということです。例えば変異株に対するワクチンの効果について、厚生労働省のウェブサイトを見てみます。文中にはワクチンの効果は「少し低下する」、と書いてありますが、「なくなる」とは書いてありません。

正しい情報を受け取って、正しく解釈する、少し意識してみてください。