治療抵抗性関節リウマチ
今回は、治療抵抗性関節リウマチのお話です。
関節リウマチの世界は、メトトレキサート(リウマトレックス、メトレート。以下MTX)や生物学的製剤の登場により劇的な変化を遂げました。リウマチになっても関節が変形しない時代になりました。寛解を目指せるようになり、寛解を達成するためには、より早期に治療を開始することが重要であると認識されるようになりました。いかに早期に関節リウマチの診断を下すか、そして、まだ発症していない段階でとらえることはできないか、またその状態で治療を行うことによりよりよい予後に導けないか、など発症早期・発症前の状態について多くの研究がなされるようになりました。
しかし、一方で様々な治療薬を使ってもなお、寛解や低疾患活動性に至らない患者さんも一定数おられます。実際に私の経験上も、そういった患者さんが多くはありませんが何人かおられました。こういった患者さんをどのように治療するか、というのは今後の研究テーマの一つと考えます。
ただ、物事を考えるには、ただ漠然と「治療抵抗性」と考えているだけでは先へ進めません。なぜ治療抵抗性になってしまうのか、そういった患者さんをどのように治療するかを考えるには、まず「治療抵抗性」とは何か、を定義する必要があります。
私の勤務医時代の終盤に、当時の勤務先の病院に通院しておられた「治療抵抗性関節リウマチ患者さん」について集計し、特徴を検討したことがあります。当時は「治療抵抗性」の定義が定まっておらず、様々な定義が提唱されており、どの定義を使うかで治療抵抗性にあてはまる患者さんが1.7%〜5.4%とばらつきがありました。
今後の研究と患者さんの治療効果改善のためには、統一した定義が必要ということで、2020年にヨーロッパリウマチ学会から、「治療抵抗性関節リウマチ」の定義が発表されました。
以下、「治療抵抗性関節リウマチ」のことを「difficult-to-treat RA」と表記します。
引用元:Ann Rheum Dis. 2021; 80: 31-35
difficult-to-treat RAは、以下の3つの項目によって定義されています。
①治療抵抗歴
②活動性・有症候性
③認識
この表記だけ見てもよくわからないので、もう少し詳しく一つずつ見ていきましょう。
①治療抵抗歴
これは比較的わかりやすいと思います。様々な治療薬を使っても効かなかったということです。ただ、「様々な」と表現してしまうと人によって認識は変わってしまいます。
そこで、
csDMARD(MTXなど)の後に2剤以上の生物学的製剤/JAK阻害薬を使用しても治療抵抗性である
と定義しました。
②活動性・有症候性
これについても様々な見方がありますので、以下のうちのいずれか、という形で定義しています。
1.DAS28>3.2、CDAI>10など中疾患活動性以上である
2.(低疾患活動性以下であっても)活動性を示す所見がある
→これは血液検査の炎症所見や画像所見、関節の所見(腫れなど)が該当します。
3.ステロイドが7.5mg(プレドニゾロン換算)以下に減量できない
→量をどうするかという点については議論があったようです。
4.レントゲン上の急速な進行がある
5.疾患活動性がコントロールされていても、QOL(生活の質)の低下をきたすようなリウマチ症状がある
→これは少しわかりにくいかもしれませんが、例えば膝が痛くて階段が上がれない、など生活に支障があるということを指しています。
③認識
これについては原文では「clinical perception」と表記されており、どう訳すのが最適か思いつきませんが、要は「現在の関節リウマチの状態を、患者さんまたは医師がまだ問題のある状態だと認識している」ということです。
まとめ
これらの①〜③が満たされる場合、つまり多剤治療抵抗歴があり、その上で活動性があり、患者さんまたは医師がそれを問題のある状態だと認識している場合に、difficult-to-treat RAとなります。こういった患者さんたちの特徴や治療方針については今後の課題です。
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